November 10111996

 闇に鳴く虫に気づかれまいとゆく

                           酒井弘司

冬にかかると、虫の音も途絶えがちになる。そんなある夜、作者は道端の草叢で鳴く虫の音を耳にした。たった一匹の声らしい。そこで作者は、機嫌良く鳴いているこの遅生まれの虫を驚かすまいと、忍び足で行き過ぎていくというわけだ。このとき、酒井弘司はまだ高校生。この若年の感受性は天性のもので、その後の俳句人生を予感させるに十分な才質というべきだろう。『蝶の森』所収。(清水哲男)




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