October 27101996

 漬物桶に塩ふれと母は産んだか

                           尾崎放哉

者は、鳥取市出身。鳥取一中から一高東大を経て一流会社に就職。現代の教育ママからすれば「一づくめ」の垂涎の的である道を、ある日突然のように妻子も捨てて、放浪生活に入った。このドラマチックな人生行路に引きつけられて、放哉(ほうさい)のファンになった読者は数知れず……。いわゆる自由律俳句である。場面は明瞭、句意も明瞭。この句が心に残るのは、単純で地味な「仕事とも言えない」仕事にたずさわらざるを得ないときの切なさに、誰しもが共感できるからなのだろう。人が生きていくなかでの寂寥のありどころを、短い言葉でずばりと言い当てている。無季。(清水哲男)




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