October 24101996

 清水を祇園へ下る菊の雨

                           田中冬二

の句は、もちろん与謝野晶子の有名な歌を意識している。というよりも、対抗しているというべきか。「桜月夜」に対して「菊の雨」。「春」対「秋」。しかし、勝敗の帰趨は明らかで、冬二の完敗である。情感のふくらみで劣っている。田中冬二は『青い夜道』『海の見える石段』などの著書を持つ著名な抒情詩人だが、俳句もよくした。例外はあるとしても、どうも詩人の句には貧弱なものが多い。冬二ほどの凄い詩人でも、この始末。悪い句ではないけれど、イメージ的に何か物足らないのである。天は二物を与えないということだろうか。『若葉雨』所収。(清水哲男)




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