October 201996
菊の香やならには古き仏達
松尾芭蕉
陰暦九月九日(今年は今日にあたる)は、重陽(ちょうよう)。菊の節句。この句は元禄七年(1694)九月九日の作。前日八日に故郷の伊賀を出た芭蕉は、奈良に一泊。この日、奈良より大阪に向かった。いまでこそ忘れ去られている重陽の日だが、江戸期には、庶民の間でも菊酒を飲み栗飯を食べて祝った。はからずも古都にあった芭蕉の創作欲がわかないはずはない。そこでひねり出したのが、つとに有名なこの一句。仕上がりは完璧。秋の奈良の空気を、たった十七文字でつかんでみせた腕の冴え。いかによくできた絵葉書でも、ここまでは到達できないだろう。(清水哲男)
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