October 16101996

 乳母車むかし軋みぬ秋かぜに

                           島 将五

の作者にしては、珍しく感傷的な句だ。乳母車の詩といえば、なんといっても三好達治の「母よ……/淡くかなしきもののふるなり」ではじまる作品が有名だが、この句もまた母を恋うる歌だろう。むかし母が押してくれた乳母車の軋み。それが秋風の中でふとよみがえってきた。六十代後半の男の、この手放しのセンチメンタリズムに、私は深く胸うたれる。母よ……。『萍水』所収。(清水哲男)




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