October 12101996

 夕焼や新宿の街棒立ちに

                           奥坂まや

和62年(1987)の作。新宿西口高層ビル街の夕景である。この句を読んで瞬間的に思ったのは「作者はあまり新宿になじみがないな」ということだった。私のような「新宿小僧」にいわせれば、新宿は棒立ちになるような街ではない。第一、高層ビルだなんて、新宿には似合わないのである。私自身、高層ビルのひとつKDDビルの34階で数年仕事をしていたけれど、一度もそこを新宿だと感じたことはなかった。このことは、もちろん句の良し悪しに関係はないのだけれど、なんだか私にはくやしいような作品ではある。そういえば、戦前の流行歌の一節に「変る新宿あの武蔵野の月もデパートの屋根に出る」とかなんとか、そんな文句があった。この歌を書いた人ならば、きっとこの句を歓迎するだろう。『列柱』所収。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます