October 03101996

 御免なり将棋の駒も箱の内

                           小林一茶

賀百万石前田候の本陣に招かれた席での句。将棋の駒も箱に入ってしまえば、玉将も桂馬も歩兵もみな一緒。つまり、人間に上下の差異はないことを、目の前の大名に暗示している。前田候に句の意味がわからなかったはずはないが、そこは天下の大名だ。「面白いことをいう奴だ」と、引き出物として絹の小袖を与えている。一茶は帰宅してから、それを裏の空き地のゴミ捨て場にポイと捨ててしまった。まるで講談の世界。このエピソードは、どうやら後世の人の創作らしいが、その意味ではこの句自体もあやしい。でも、いいでしょう。私は、句も挿話も丸ごと受け取っておきたい。無季。(清水哲男)




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