September 2091996

 酒も少しは飲む父なるぞ秋の夜は

                           大串 章

書に「故郷より吾子誕生の報至る。即ち一と言」とある。つまり、この句は、まだ見ぬ生まれたばかりの我が子に宛てたメッセージだ。母子ともに元気。こうした場合、その程度の知らせが一般的で、あとは新米の父親たるもの、とりあえずは自分で自分に祝杯をあげるくらいしか能がない。そこで、なんだか嬉しいような困ったような、妙な気分で独り言でもいうくらいのことしかできないのである。私自身もそうだったから、時も秋だったから、この作品は実感的によくわかる。ところで、この句を某居酒屋チェーンの銀座店が、作者には無断で宣伝用の栞(?)に刷り込んで使っているそうな。なるほど、前書をとっぱらってしまえば、勤めがえりの「ちょっと一杯」の気分にも通じなくはない。はしこいですねエ、商売人というものは。見習わなければね、とくに詩人は。『朝の舟』(1978)所収。(清水哲男)




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