September 1891996

 りんご掌にこの情念を如何せむ

                           桂 信子

の句は難しいといわれている。短い詩型だから、想いのすべてを盛りきれないからだ。その点、短歌はほとんど恋歌のための詩型だろう。そんななかで、桂信子のこの一句は希有な成功例だと思う。その秘密は「情念」という抽象語を生々しく使ってみせた技術にある。じいっと句を眺めていると、むしろ「りんご」のほうが抽象的に見えてきてしまう不思議。戦前の女性句に、こんな新しさがあったとは。作者は大正三年秋、大阪生まれ。『月光抄』所収。(清水哲男)




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