September 1791996

 鈴虫の一ぴき十銭高しと妻いふ

                           日野草城

作「鈴虫」十四句の三句目。病気の子を慰めようと、勤めがえりに買い求めてきた鈴虫。しかし、妻から最初に出た言葉は「それ、いくらしたの」であった。がっかり、である。昭和十年頃の作品。当時の物価を調べてみると、豆腐が一丁5銭で、そば(もり・かけ)がちょうど10銭。カレーライスが15銭から20銭。天どんが40銭ほどだった。こう見ると、やっぱりこの鈴虫、高いことは高い。それに、いまと違ってどこにでも秋の虫がいた時代だということを思えば、なおさらである。この勝負、草城の負け。『轉轍手』所収。(清水哲男)




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