August 1981996

 水族館汗の少女の来て匂ふ

                           ねじめ正也

んでもない情景だが、一瞬、作者の「男」が頭をもたげているところに注目。入ってきたのが少女ではなく少年だとしたら、句はおのずから別の情感に流れる。というよりも、作品化しなかったかもしれぬ。で、この少女がその後どうしたのかというと「闘魚の名少女巧みに読みて去る」のだった。水族館なんぞに、さして興味はなかったのである。ましてや、偶然に傍らにいたおじさんなんぞには。作者は直木賞作家・ねじめ正一の実父。ねじめ君に聞いた話では、その昔、放浪の俳人・山頭火が、高円寺(東京・杉並)で乾物店を営んでいた父君を訪ねてきたことがあったという。『蝿取リボン』所収。(清水哲男)




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