August 1381996

 夜の川を馬が歩けり盆の靄

                           大木あまり

想的な日本画を見るような趣き。夜といっても、深い夕暮れ時の光景だろう。この農耕馬にしてみれば、一日の仕事を終えた後の水浴の時だが、作者には死者の魂を現世に乗せてきた馬のように見えている。折りから川面には靄(もや)が立ちこめはじめ、一介の農耕馬も、この世のものではないような存在と写る。盆と水。そして、生物。この時季の日本人の情緒のありどころを、さりげない調子で描破した鋭さが見事だ。『火のいろに』所収。(清水哲男)




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