August 0981996

 階下の人も寝る向き同じ蛙の夜

                           金子兜太

京で暮らすようになってから、蛙の声などほとんど耳にしたことがない。少年期には山口県の山奥で暮らしていたので、蛙はごく身近な生物だったというのに。作者は、客として二階に布団を敷いてもらったものの、なかなか寝つけない。蛙の声しきり……。そんななかで、ふと気づいたおかしみである。兜太の力業も魅力的だが、初期のこうした繊細な神経の使いようも面白い。『少年』所収。(清水哲男)




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